全司法本部活動日記 (Blog)

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裁判手続等のIT化に関する書記長談話

内閣官房に設置された「裁判手続等のIT化検討会」が3月30日、「裁判手続等のIT化に向けた取りまとめ」を行ったことを受けて、全司法本部は書記長名で以下の談話を出しました。

参考:裁判手続等のIT化検討会- 日本経済再生本部

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2018年4月3日
全司法労働組合 書記長 長岡 文生

 

司法アクセスの向上と国民が利用しやすい裁判所の実現を求める(談話)
(「裁判手続等のIT化に向けた取りまとめ」を受けて)

 

 政府は2017年6月9日に閣議決定した「未来投資戦略2017」において、「迅速かつ効率的な裁判の実現を図るため、諸外国の状況も踏まえ、裁判における手続保障や情報セキュリティ面を含む総合的な観点から、関係機関等の協力を得て利用者目線で裁判に係る手続等のITを推進する方策について速やかに検討し、本年度中に結論を得る。」とされたことを踏まえ、内閣官房に「裁判手続等のIT化検討会」(以下「検討会」という。)を設置し、検討会は3月30日、「裁判手続等のIT化に向けた取りまとめ」(以下「取りまとめ」という。)を行った。今後、民事裁判のIT化を念頭に法務省が中心となって、実務的、法理論的な検討がすすめられることとなり、最高裁においても運用面の具体的な検討が行われることとなっているが、裁判所の実務に大きな影響を与えることはもちろん、職員の働き方等にも密接に関わることから、政府や最高裁の検討に現場の意見を十分反映するよう求めるとともに、憲法が定める基本的人権の保障、国民の裁判を受ける権利の拡充をめざし、「司法アクセスの向上」と「国民が利用しやすい裁判所の実現」のための方策となるよう求める。

1 検討会においては、法律学者や裁判官経験者のみならず、経済界、企業法務やIT関連に精通する弁護士、消費者団体など、様々な立場からの議論がすすめられ、いずれからも裁判手続IT化の推進に大きな期待が寄せられ、裁判手続の利用者からみて非常に強いニーズがあることが示された。このことは積極的なものとして受け止めたい。この検討が財界の意向を反映した政府の経済政策の一環としてすすめられたことに留意しつつも、このようなIT化のニーズ等を踏まえれば、裁判手続のIT化は今後推進されていくべきものと言える。
 検討会の議論は「利用者目線」での検討が中心となっているが、検討会が示したいわゆる「3つのe」(e提出、e法廷、e事件管理)は、「裁判記録の電子データ化」と「通信技術の積極的な活用」が基礎となり、これらは裁判所における事務処理のあり方と密接不可分なものである。「国民が利用しやすい裁判所」は、利用者の利便性の向上と、実務を担う職員の安定的な事務処理が結合して初めて実現するものであるから、現場の実情や意見を踏まえた検討がなされる必要があり、職員の働き方や事務量の増加にも十分配慮されなければならない。

2 「3つのe」が実現され、将来にわたっても安定的に運用されていくためには、裁判所における相応の情報基盤整備が必要不可欠である。この間裁判所の各部門において様々な事務処理システムが構築・導入されてきたが、これまでも職員からは使い勝手の悪さが指摘されるとともに、サーバ容量の脆弱さに起因したレスポンスの低下やシステムダウンが生じるなど、必ずしも十分なものとは言えない状況が続いてきた。「3つのe」を前提とした新たなシステムを構築していく上では、こうした裁判所におけるIT化の経過と総括、職場実態を十分踏まえた上で検討されることが重要であり、電子記録を蓄積していくための大容量サーバの整備や高速通信が可能なネットワーク環境をはじめ、IT化に相応しい機器や施設整備など、裁判所における情報基盤の整備を改めて強化していく必要がある。そのためには、三権の一つである司法分野に関わる国民的基盤の整備として、十分な予算を確保して行うことが決定的に重要である。
 なお、取りまとめにおいては、情報セキュリティ対策について、「極めて高度かつ厳格なものまでは要求されず、基本的には、行政機関や民間の取引におけるセキュリティ水準と同程度のものを念頭に、合理的な水準を確保することが相当」としているが、裁判所が取り扱う情報は「個人情報の集合体」であり、秘匿性の高い情報は裁判部門、司法行政部門を問わず極めて多く存在している。こうした状況のもとで、裁判所における情報セキュリティ対策は最重要施策の一つとなっており、国民が安心して司法サービスを享受できるためには、高度なセキュリティレベルが求められることを付言したい。

3 裁判手続のIT化による司法アクセスの向上を推進していくためには、利用者に対するIT面でのサポート体制の構築や各裁判所における情報政策部門の創設・強化など、司法サービスを担う裁判所の人員を含めた体制整備は不可欠である。また、電子化された裁判記録の作成・管理をはじめ、通信技術を活用した裁判運営を支える裁判所書記官の役割はさらに高まることから、公証官としての専門性も含め、IT化を視野に入れた人材育成を強化することが重要であり、このことは、裁判部門を支える司法行政事務の担い手である裁判所事務官をはじめ、その他の官職についても同様の課題と言える。今後のプロセスとして、2019年度にはフェーズⅠ(現行法の下でのウェブ会議・テレビ会議等の運用)の試行も指摘されていることを踏まえれば、こうした種々の課題について、最高裁での検討を速やかに行うことが求められ、何より、裁判所の人物・物的態勢を充実させていく必要がある。
 今後の検討にあたって、取りまとめにおいても「裁判運営の中核に関わる問題」として、「司法府の自律的判断が尊重される必要がある」とされていることを踏まえ、私たちは、今後のプロセスにおける様々な課題について、裁判所職員を組織する労働組合として、組織の内外に対して積極的に情報発信や意見表明を行っていくとともに、引き続き最高裁との対応を強化し、要求の前進と国民のための裁判所実現に向けて奮闘するものである。


以 上