全司法本部活動日記 (Blog)

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最高裁長官と会見

20日、全司法本部の四役は就任あいさつをかねて寺田逸郎最高裁判所長官と会見しました。

この会見は1994年以来、毎年行われていますが、こうした会見が行われるのは、最高裁が全司法を裁判所職員の代表と認めているからこそです。

そこでの長官の発言は、儀礼的な「あいさつ」の席での発言ではありますが、三権の長である最高裁判所長官が全司法の代表と会い、裁判所における政策課題や全司法との誠実対応についての考え方を表明したものとして大きな意義があります。

やりとりの要旨は、以下のとおりです。少し長いですが、読んでみてください。

(中矢)

 

(委員長) 本日の会見にあたって、全司法労働組合として持っております問題意識のいくつかの項目について意見を述べさせていただき、長官のお考えをお聞かせ願いたいと思います。

(長官) 承りました。

当局と職員団体という立場の相違はありますが、今後ともこれまで同様、相互の信頼関係に基づき、いろいろな問題について、率直に意見交換をしながら、より良い方向で解決していってもらいたいと思います。

 

2.裁判所の人的態勢の整備について

(委員長) この間、全国規模で見ると、家庭裁判所の書記官等を中心に一定の人的手当てがはかられているものと認識していますが、職場からは引き続き、人的態勢整備の必要性が伝わってきています。

家庭裁判所では、この間の事件数増加への対応に加えて、成年後見事件の適正・迅速な事務処理に労力が注がれています。とりわけ、不正防止を含む後見監督については、監督事務のあり方も含めて、各庁での模索と努力が続いているところです。

民事事件等での事件の複雑・困難化に対する対応も重要です。各種の紛争解決のために、引き続き適正・迅速な事件処理が求められているとともに、とりわけ、わが国が大きな岐路にさしかかっていると感じさせるような様々な情勢の動きがあるもとで、裁判所が国民から求められる役割もますます大きくなってきていることが感じられます。

また、裁判所は全国各地にありますが、国民に対しては、庁規模の大小によって変わることのない司法サービスを提供することが求められています。例え、地方の小規模庁であっても、国民の負託に応え、職員が無理なく執務できるだけの人的態勢が必要です。

裁判部門だけでなく、庁舎改修等の案件を抱える会計関係の部署をはじめ、事務局からも繁忙状況が伝わってきており、業務量に見合った人的手当てをはかるとともに、機動的な応援態勢や事務処理の簡素化、効率化にむけたさらなる具体的方策の検討が必要だと考えています。

それぞれの職場状況をきめ細かく見ていただき、次年度に向けて、引き続き、各職場の人的態勢整備をお願いしたいと思います。

(長官) 司法制度改革がスタートしてから15年が経過し、この間、より身近で、頼りがいのある司法を築くことを目指して、裁判所の扱う様々な事件の分野に新たな制度が導入されました。民事手続では労働審判制度の導入や、知的財産高等裁判所の活動が高い評価を得ているほか、刑事裁判に大きな変革をもたらした裁判員制度は、国民の高い意識と誠実な姿勢に支えられて、刑事手続の標準として定着しつつありますが、社会経済のさらなる変化を受けて、司法の判断が社会経済や国民生活に大きく影響を及ぼす事件など判断が難しい事件が増加傾向にある中で、裁判所が適正・迅速な裁判を通じて、個別の事案、事件に妥当な解決をもたらすという使命を十分に果たしていくことは、安定した社会の基盤を確保するために極めて重要です。

各裁判部門の実情をみると、民事の分野では、利害関係が錯綜する事件や対立が根深く解決が困難な事件が増えてきていることから、適正迅速な紛争解決の実現という裁判本来の役割を見つめ直すとともに、時代の趨勢を見据えた運用改善に努めていく必要がありますし、刑事の分野では、裁判員制度の運営について、公判前整理手続の長期化など、なお検討すべき課題に取り組んでいくためには、刑事裁判本来の姿を再確認しながら、具体的な事案に基づく実証的な検討を重ね、その結果を実務へ還元していくという地道なとりくみを続けていく必要があります。

また、家事の分野では、家族の在りようの多様化と少子高齢化の進展とが相まって、解決困難な事件の増加をもたらしているとともに、権利意識の高まりにより、家族間の問題であっても、手続の透明性と権利義務の明確化を求める事件が増えていることから、このような家事事件をめぐる状況の変化を踏まえ、常に実情に即した問題意識を持ち、新しい発想と創意工夫をもって、実務の運営の改善に取り組んでいかなければなりません。

さらに、これらの裁判部門を支える司法行政部門においては、裁判部門の実情や裁判部門が日々直面している課題を的確に把握し、その環境整備を行っていくことが必要不可欠です。

私たちは、これまでも、司法の果たすべき役割がますます重要になるという認識に立ちつつ、司法の機能充実・強化に努めてきましたが、こうした状況にあって、裁判所がその使命を果たしていくために、今後とも人的・物的態勢を整備していく必要があります。一方で、極めて厳しい財政状況の中、裁判所の態勢整備に国民の理解を得ていくためには、より一層の内部努力を重ねていくことが不可欠です。職員の皆さんには、引き続き御協力をお願いしたいと思います。

 

3.超勤縮減、「働き方の見直し」、事務の簡素化・効率化について

(委員長) 私たちは、労働時間は賃金とともに、労働条件の根幹をなすものだと考えています。正規の勤務時間以外の時間は、本来、「自分の時間」として、働く者が自由に使うことができる時間であり、その中で、育児や介護を含む家庭生活を営み、自己研鑽や休息・気分転換を行い、地域での活動や社会的な活動、さらには、労働組合の活動に積極的に参加する機会を持つことが必要です。

裏返して言うなら、超過勤務は、職務のために「自分の時間」を削るということであり、可能な限り縮減するのが本来の姿であると考えています。ましてや、「持ち帰り」や「サービス残業」があってはならないことは、最高裁もかねてから同じ認識を持っているものと理解しています。

その意味で、最高裁が超勤縮減をすすめる姿勢を示し、ワークライフバランスを重視して「働き方の見直し」を行うとされていることについては、私たちも評価し、そのとりくみに期待しているところです。当局がすすめている女性の登用拡大や次世代育成支援にも影響する課題であり、職員の健康管理のうえからも重要な課題だと認識しています。

一方で、これはかけ声だけではすすまない課題でもあり、「現場任せ」にしていても上手くいかないのではないかと考えています。各部署の執務態勢を整備していくことも必要ですし、当局が「事務の簡素化、効率化」をすすめることで超勤縮減をはかるとしていることからすれば、最高裁をはじめ各庁当局が「事務の簡素化・効率化を思い切ってすすめる」という明確な姿勢を職員に対して示し、具体的な提案を行うなどリーダーシップを発揮していくことも必要だと考えています。

私たちも最高裁も、問題意識は共通にしている課題だと思いますので、ともに努力して、目に見える形ですすめていきたいと考えています。

(長官) 職員の皆さんに持てる力を十分に発揮してもらうには、心身の健康の保持、増進を図るとともに、家庭生活と両立していけるような環境整備を進めることが重要です。このような観点から、これまでも種々の施策を講じてきていますが、今後もその実効性を高めるために工夫すべき点がないか等につき検討させていきたいと考えています。

 

4.職員の育成について

(委員長) 職員の素養や実務能力を高めることは、「国民のための裁判所」を作るうえで重要であるとともに、自信を持って職務に向き合う力をつけることは職員自身のやりがいにもつながる課題だと考えています。とりわけ、数年後からは1980年代後半からの大量退職・採用期に採用された職員の定年退職が始まることが予想されるもとで、それらの職員が蓄積してきた知識や経験を引き継ぐことも重要な課題になってくるものと認識しています。

これまでに、1996年に出された「中長期的観点に立った職員制度に関する提言」(参事官室提言)や2012年から実施されている「家庭裁判所調査官の育成のための新たな施策」などの職員政策がありますが、その後の経過もふまえて、改めて、研修制度、配置と異動、職務を通じた能力の向上などを総合的にとらえ、中長期的な観点から職員の育成を図っていくことが重要だと考えています。

また、職員は上司からの指導だけではなく、先輩から助言を受け、同僚の仕事ぶりから学び、部下や後輩を指導する中でも学びます。上手くいくことばかりではなく、失敗を繰り返ししながらも、そのことを糧にして経験や能力を培っていきます。こうした相互に学びあい、高め合う職場にしていくためにもっとも重要なことは、職場の中で協力し合い、自由闊達に議論しながら、職員が萎縮することなく、のびのびと仕事をすすめる職場を作ることだと考えています。当局は、OJTの育成者として管理職員を想定されていますが、そうした視点で、育成者に対する指導や研修を充実していただきたいと考えます。

(長官) 社会、経済状況の変化等を反映して、裁判所に求められるものがますます幅広く、深くなってきている中、これまでにも増して、一件一件の事件の適正・迅速な解決に向けて誠実に努めることにより、国民、社会からの信頼をより確かなものとしていくためには、職員一人一人の士気を高め、その能力を伸長させる人材育成が重要であることから、日常の執務を通じて成長を図る仕組みの一層の充実に努めたいと考えています。

 

5.全司法との誠実対応について

(委員長) 1992年3月18日の最高裁事務総長見解以降、全司法と裁判所当局とは相互の信頼関係に基づいて、建設的な労使関係が築かれていると認識しています。

全司法はこれまでにも職員の声を集め、現場の職員の視点から、当局に対し様々な課題で意見を述べてきていますが、相互の信頼関係にもとづき、そうした率直な意見交換を行うことを通して、様々な施策が立案、検証され、今の裁判所の職場のあり様ができあがってきたものと考えています。そうした役割をふまえ、私たちは今後とも、職員の地位の向上と「国民のための裁判所」実現を目指す立場から努力を重ね、意見を述べていきたいと考えています。

引き続き、全国の各庁で、全司法の意見に耳を傾けていただき、率直で建設的な議論を積み重ねていけるよう、全司法との誠実な対応と健全な労使関係を築いていくことを確認したいと思います。

(長官) 昨年も述べましたように、1992(平成4)年3月18日の事務総長見解の内容は当然のことと考えています。職員の勤務条件やこれに関連する事項については、これまで築き上げてきた相互の信頼関係に基づき、率直に問題意識をぶつけ合い、忌憚なく話し合う中で、問題の解決を図っていかなければならないと考えています。

担当部局には、今後もそのような立場で努力させたいと思いますし、職員団体もその方向で努力していただきたいと思います。